abyl1999のブログ

私が日常で体験した雑多な問題解決策の備忘録

秒速5センチメートル:遠野の夢が意味するもの(コスモナウト)

秒速5センチメートルの「コスモナウト」で、たびたび遠野は夢を見る。リストアップするとこういう感じ。
①異星の草原の夢(序盤)
イメージ 1
②浜辺の夢(花苗と雨に濡れながら帰った夜)
イメージ 2
③異星の草原の夢(ラストの花苗の独白シーン)
イメージ 3
このように3つに分けられたが、恐らくこれらは夢の中では同じ世界なのだろう。
順を追って、その夢の意味を考察していこうと思う。
①異星の草原の夢(序盤)
桜花抄が終わり、画面が黒くなった数秒後、唐突に始まるこの夢。
遠野は異星の草原に身を置いており、朝焼けを眺めている。するとその横には、女の子がいる。遠野は彼女に視線を送る。アカリか?とも思えるが、遠野の視点からでは顔がハッキリと見えない。顔が見えないが、遠野は再び前を向き、彼女と二人で昇りつつある朝日を見る。

恐らくこの夢は、遠野の心理状況が具現化されたものであろう。
朝日は、新しい物事の始まりである。遠野は自分に迫りくる新たな未来への準備をこの朝日を投影している。
けれど朝日は昇り始めたばかりで、完全には昇っていない。つまりまだ遠野は未来への準備ができていないのだろう。それは何か心残りがあるからだろうか。
そして、隣にいる女の子は、遠野が心の支えにしているモノの象徴である。
しかし、彼はそれが誰なのか、いまだに確証がつかめておらず、夢の中では顔が表示されないのはその反映だろう。
統括すると
・遠野の視点は将来に向いている。
・しかし、自分の内にあるものが完全には把握できていない。
・未来への出発の心残りの反映が「少女の顔が見えないこと」、「昇りかけの朝日」に表れている。
                     といった具合だろう。


②浜辺の夢(花苗と雨に濡れながら帰った夜)
この夢はどちらかというと、遠野にとってはあまり深い意味はないものだろう。
遠野の夢の世界でのプライベートゾーンに、花苗が足を踏み入れたことを示すためのシーンであり、かつ、遠野のメールの宛先を判明させるシーンのために設けられたものだろう。(花苗とこの夢については最初の記事参照)
また、余談ではあるが、この直前紙飛行機を飛ばすシーンでの草原は、貴樹の夢の中での草原と一致しており、花苗は夢の中の少女のポジションに座っている。そして、花苗の「進路の紙」で出来た飛行機は、まっすぐ前に飛ばず上に向かって飛んでいく。貴樹は夢の中でまっすぐ前にある恒星をじっと見ていたが、現実世界の花苗の「進路」を乗せた飛行機は彼の見ている視線の先(夢の中で恒星がある位置)とは違う方向に飛んでいく。これは、二人は一緒の道を歩むことはないという暗喩に見て取れる。

③異星の草原の夢(ラストの花苗の独白シーン)
これは、かなり大きな意味があるシーン。①の夢の結末である。
花苗の告白未遂を受けて、大きなものを悟ったのは花苗だけではなかったのである。
花苗は、告白未遂を通して遠野と自分が一緒の場所に未来永劫居ることはできないことを悟る。というよりか、前々から薄々感じとっていたその事実を正確に受け止める。

そして遠野は夢の中にいた少女が花苗でないことを確信し、そしてカナエを振ったことにより、島に人間関係の未練はなくなり、未来への旅立ちの心残りになるものはなくなったのだ。(遠くへ行くとき、心残りになるものがあったら自由に行くことはできない)
先ほど①において、この少女は遠野の心の支え、求心力であり、正体がはっきりとつかめていない存在であるといった。しかし、③において少女の顔がハッキリと明るみに出る。昇りきった朝日に照らされた顔は、まぎれもなくアカリそのものであった。(絵コンテでも、「花苗ではなくアカリ」と明記されている。)
はい、まとめます。
・遠野は今までずっと夢の中での少女の正体がつかめずにおり、朝日も完全に昇っていなかった。
それは、自分に心残りや、疑問があったから。
・その疑問というものは、「自分の生き方」と「自分の心の奥底にいる求心力である女の子がわからない」というもの。
・遠野は自分の生き方についてわからず葛藤していた。しかし花苗とロケット運搬を見たとき、孤独に宇宙を行くロケットに感情移入し、自分はロケットと同じような感じで生きていることを悟る。
・ロケット運搬のとき、花苗の「時速5キロなんだって」という発言によって、遠野は狼狽する。
・「前から薄々思っていたがひょっとすると、花苗が夢に出てくる女の子なのではないか。」と。そして同時に明里の存在もありありと思い始める。
・しかし、花苗が告白しようとしてきたとき遠野は直感的に「あの女の子はカナエでない」と気づく。
遠野は自分を未来に投機するため、今までの地元に対する縛りを捨てようと思っていたが、それを阻害する行為を花苗はしようとした。そこで価値観の違いにも気づき、花苗があの少女でないと思える根拠を補強したのかもしれない。
・花苗の告白を防ぎ、そして打ちあがったロケットを見たとき、遠野は自分の視点は完全に未来に対してあることを確信する。
自分は誰にも縛られない、逆に言えば孤独なロケットと同じである、と感じ取る。
そして、カナエはあの夢の少女でなく、自分が未来に向かって生きようとする行動の根底には「アカリ」がいることに気づく。
すべての疑問から解放されたとき、遠野は自分の将来、生き方を見つけ出す。
「自分はこれから一人で未来に向かって生きていく。価値観を共有していたアカリとともに。」と。
朝日が完全に昇っている。遠野は未来に対して旅立つ事が出来たことを示している。

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遠野が、夢の少女の正体について確信を得たから少女の顔がハッキリとし、同時に朝日が上がったのだろう。

①~③を合わせて...

・夢は遠野の現状を表している。

・少女の顔が最初見えなかったのは、遠野自身も葛藤していたから。(少女は、アカリor花苗か、と)

・少女がカナエでないと確信した途端、アカリが少女であると確信し、顔が見えるようになった。

・朝日は自分の旅立ちの表現であり、最後のシーンで完全に昇っていることから、遠野は未来への準備を完了したということがわかる。(事実、小説版の第3部において、種子島時代の自分は未来へ飛び立とうと必死にもがいていた、と供述している。)